喫茶店の耽り

頭の中で整理したり、しなかったり

加害

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「ご迷惑ですのでお帰りください」

おそらく人生で初めて、喫茶店で入店拒否を受けた。席に着いて上着を脱ぎ、メニューを見ようとした瞬間に強めの口調で言われ、私は混乱して気分を害した。まだ何もしていないのに。
「入口の貼り紙にも書いているとおり、うちは飲食店なので香水や柔軟剤の匂いが強い人はお断りしています」
自覚がなかった。香水はつけていないし柔軟剤も無香料だ。むしろ私もそういう匂いは苦手で、先日も喫茶店に行った際に隣の席の匂いが辛くて読書を諦めて退店したくらいだった。とりあえず、すぐさま身支度を済ませて店を出た。雪がちらつく外でため息と深呼吸をする。そしてハッとした。
朝から美容室でヘッドスパを受けており、どうやら私は頭部にとても良い香りをまとっていたらしい。不幸にも私は慢性鼻炎で、ほんのり整髪剤の香り程度だと思っていた。リラックスして頭もスッキリ、ルンルン気分で昼食に注文しようとしていたドリアを想像していた私のテンションは急降下。これ以上誰かに迷惑をかけてはいけない、外食は諦めて直帰することにした。途中、本屋に寄って古田徹也著『いつもの言葉を哲学する』の中で紹介されていて気になった幸田文著『台所帖』を勘で探したが見当たらなかったので、新書の棚から気になっていた青山拓央著『分析哲学講義』を買った。
今回の件は誰も悪気はない。むしろお店側がハッキリ言ってくれたおかげで私は無意識な迷惑を撒き散らさずに済んだ。一瞬だけ冤罪かと思って反論しようとしたが飲み込んで本当によかった。こういうケースで自分を棚に上げたクレームやトラブルは少なくないと思う。人はいつ加害者になるかわからない。他人と関われば被害者意識をもつ瞬間は日常的にあるけど、自分を正当化しているだけかもしれない。きっと生ぬるい考えなのだろうけど、私はなるべく踏みとどまりたい。

「根っからの悪人っているの?」