喫茶店で思い耽ったことを

頭の中で整理したりしなかったり

静養

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昨日から天皇皇后両陛下が北海道の釧路方面に来ている。4日前は大音量の右翼街宣車に遭遇した。2日前の閣議で決定された岸田内閣は54人全て男性議員だった。6日前には札幌地裁が同性カップルの扶養手当をめぐる裁判で原告側の請求を棄却した。先週から大通公園でグルメイベントのオータムフェストが始まった。3日前に阪神タイガースがアレをした。今日も私は喫茶店でコーヒーとケーキを頂きながら空白を過ごしていた。寝起きに寝癖のままで。

8月30日、小樽市にある喫茶コロンビアに突然の貼り紙が。それを見つけた人がSNSに載せて僅かに拡散された。「お知らせ 今日迄多くの方々にご来店いただき大変ありがとうございました。高齢の為これ以上継続が難しく8月31日を最後に閉店となりました。店主」つまり、閉店前日の告知である。後に北海道新聞で掲載された記事(https://www.hokkaido-np.co.jp/article/909975/)によると、できるだけ客が殺到しないように配慮したのだという。SNSがなければ静かに最後を迎えられたのかもしれないと思うと、複雑だった。結局は行列ができるくらいに混雑してしまったらしい。そんなことをだいたい予想できていた私は入店できないことを覚悟しつつ、御礼の挨拶くらいは、いや、せめて肉眼で最後の姿を見るだけでもと思い、終業後に小樽行きのバスに飛び乗った。小樽につくと雨。傘はない。とぼとぼ喫茶コロンビアへ向かったが既に『営業中』の札は降ろされていた。ダメ元で覗き込むと、いつもの店員さんが電話をしながら私に向かって手でバツ印を作ったので、すべてを諦めて外へ出た。10分ほど雨に打たれながら店を眺めるだけ眺めて、後ろ髪を引かれるように駅へと向かった。

拙著『喫茶とインテリアⅡ NORTH』で取材させていただいたのは5年ほど前。マスターは忙しいにも関わらず30分近くも時間を取ってくれた。その後も小樽に行くたび寄っていたがコロナ禍になってからは閉店時間の短縮、最近だと臨時休業も目立っていた。口コミに「提供が遅い」だの「接客が悪い」だの好き勝手書かれているのを見るたび辛かった。2階にあるキッチンで調理を担当していたマスターと奥さんだったが半年前から奥さんが入院、今年で75歳になるマスターもがん治療による体力低下が著しかった。それでもギリギリまで一人で調理をこなして営業し続けた。

老舗に限らず、店は基本的に人間が働いている。人間は心と身体でできている。すなわち、店は心と身体でできていると言っても過言ではない。客の自分を受け入れてくれる店たちに日頃から感謝を。別れは突然かもしれないから。コロンビアのマスターの言葉を思い出す。

「この店はカウンター席がないから、前は頻繁に1階へ降りて常連さんを見かけたら声をかけたり、かけられたりしていたんですよ。だけど、みんな高齢だから突然来なくなったりする。それが、一番寂しいかな。その代わり、次の世代のお客さんが来てくれているからさ。学生時代に来ていた人が、また懐かしんで来てくれたら嬉しいね」

小樽の地で1948年から定休日なし、深夜まで営業し続けてくれていたコロンビアに癒しの休息を。