喫茶店で思い耽ったことを

頭の中で整理したりしなかったり

糠雨

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会社の小さな飲み会のあと、そそくさと私は喫茶店へ向かった。夜遅くまで営業していて賑やか過ぎずに落ち着ける喫茶店は少ない。多くの店がコロナ禍によって営業時間を短縮した。仕事終わりに喫茶店へ寄りたい私としては寂しい。以前、長い付き合いの喫茶店で吐露したら「もう戻せないよ」と諦め交じりに言われて納得するしかなかったのを思い出しながら、小雨の中を傘もささずに歩いた。春を浴びた。『COFFEE』と描かれた行灯が見えて安心。店内に入ると子供の声が紛れる不思議な音楽が流れていた。席に着き、ちょうど店主と常連が「これ誰の曲?」「高木正勝の古いやつ」「あーそうかー」という会話をしていた。私も「あーそうかー」と脳内で知ったかぶった。名前は知ってるけど曲を知らない、は知らないのと一緒だ。オススメの音楽や飲食店について話していたので、聞き耳を立てながらコーヒーに浸った。SNS上だけで声が大きいインフルエンサーのオススメよりも、店主と常連がオススメし合っている内容のほうが不思議と信頼感がある。帰り際に流れていたのはスティーヴ・ライヒの曲だった。ミニマルミュージックを聴けるようになったのは30歳を過ぎた頃だろうか。

嗜好性はあらゆる環境の変化に依存する。誤差の折り重なりすら愉しめるよう、好奇心に余白を維持しておきたい。そぼ降る雨のような未知を浴び、自分の意志で取捨選択できる余裕を。